最近よく耳にする退職代行サービスですが、実は労働組合が運営するものを選ぶと大きなメリットがあることをご存知でしょうか。
民間の退職代行会社は退職に伴う交渉をおなうことは出来ませんが、労働組合の退職代行なら、残業代請求や有給消化等の交渉が可能です。
しかし、労働組合の退職代行にはデメリットもあるため、自身の置かれた状況に応じた代行業者選び方が重要です。
本記事では、退職代行を利用する際に労働組合運営のサービスを選ぶメリットとデメリット、選び方のポイントまで、詳しく解説していきます。
退職代行サービスには3種類がある
退職代行サービスは、代行を行う運営主体によって以下の3種類に分類されます。
それぞれの退職代行サービスごとに対応可能な範囲が異なるため、自身が置かれている状況に合わせて適切な代行業者を選ぶ必要があります。
上記について、それぞれ詳しく解説していきます。
民間企業が行う退職代行
退職代行の中でも民間企業が運営するサービスは数が多く、比較的安価に利用できる点が特徴です。
退職に伴う諸条件の交渉を民間の事業者が行うと「非弁行為(※)」に該当し、違法行為になってしまいます。
中には違法行為と知りつつも、実質的な退職交渉を行ってしまう業者もあるため、余計なトラブルを避けるためには、依頼する代行業者を見極める必要があります。
退職に伴う各種の交渉を代行してもらいたいと考えている場合は、次項で解説する「労働組合の退職代行」もしくは「弁護士の退職代行」に依頼する必要があるため、注意しておきましょう。
退職代行は許認可事業では無く、だれでも始められるサービスです。
ブラック企業に勤めているせいで、「辞めたくても辞められない」というニーズに対し、様々な企業が退職代行サービスを立ち上げており、そのサービス品質は玉石混合といえるでしょう。
そのため、民間の退職代行に依頼する場合は、相談する業者をしっかり吟味する必要があります。
労働組合が行う退職代行
労働組合が行う退職代行は、日本国憲法第28条において保証される「団体交渉権」を行使することで、退職に伴う各種交渉(有給休暇の取得・退職日の調整等)が可能な点が特徴です。
団体交渉権とは、「労働者が会社(使用者)と団体交渉する権利」であり、会社は正当な理由がなければこれを拒否することができません。
ただし、退職に伴って会社から損害賠償請求をされた場合等、裁判を含む法的な対応は出来ないため、注意が必要です。
損害賠償を請求されるリスクがある場合や、退職代行の利用を理由に「懲戒解雇する」と脅されそうな場合は、弁護士の退職代行に依頼することがおすすめです。
労働組合が行う退職代行は、退職希望者が当該労働組合に加入することで、退職代行のサービスを受けられます。
(別途組合費が必要)
中には、労働組合と提携した退職代行サービスを提供する民間業者もあるため、費用を抑えたい人は確認してみるといいでしょう。
弁護士が行う退職代行
弁護士が行う退職代行は退職交渉の代行だけではなく、裁判が必要な法的トラブルに対しても対応可能です。
そのため、有給休暇の取得や退職日の調整、引き継ぎ範囲の交渉や未払い残代の請求まで出来ることに加え、損害賠償請求をされてしまった場合でも、弁護士の退職代行であれば対応できます。
弁護士の退職代行は、民間・労働組合の退職代行より高くなる傾向がありますが、万が一の事態に備えたい人や、安心して退職代行を使いたい人にはおすすめの選択肢です。
弁護士に退職代行を依頼した場合、法律の専門家かつ法的権限を持った代理人として代行してもらえるので、ブラック企業がどんな手に出ても対応が可能です。
労働組合運営の退職代行の特徴
労働組合が運営する退職代行は、憲法で保障された労働三権のひとつである「団体交渉権」を活用して、退職プロセスのサポート受けられるサービスです。
労働組合の退職代行サービスの主な特徴は以下の通りです。
それぞれ、詳しく解説していきます。
退職に伴う交渉が可能
労働組合の退職代行では、単なる退職の意思表示だけでなく、有給休暇の消化や未払い残業代の請求など、退職に関連するさまざまな交渉が可能です。
これは労働組合が持つ団体交渉権によって、法的に認められた権利として会社側と交渉できるためです。そのため、民間の退職代行では対応できない、より広範な退職代行サービスを受けることが可能です。
具体的には、団体交渉権を用いて以下の対応が可能です。
- 退職日の調整
- 残っている有給休暇の消化
- 未払い残業代の請求
- 引き継ぎ方法の調整
※その他、退職に関する条件面の交渉が可能
民間の退職代行業者は、法律上「使者」として退職に関する意思を伝えることしかできません。退職に伴う具体的な交渉行為は非弁行為という違法行為になるため、会社側が要求を飲まなかった場合の交渉を代行してもらうことができません。
これにより、ブラック企業や退職を渋る会社に対しても、毅然とした態度で退職交渉を進めることができます。
労働組合の退職代行に退職時の交渉を代行してもらうことで、有給休暇や未払い賃金を確実に受け取りながら退職できます。
そのため、有給休暇を自由に使えずに大量に残っている人や、未払い賃金の清算がされていないブラック企業に勤めている人に、特におすすめの退職代行といえます。
団体交渉権による確実な退職が可能
前述の通り、労働組合の最大の強みは、憲法第28条で保障された団体交渉権です。
この権利により、会社側は労働組合からの交渉申し入れを正当な理由なく拒否することができません。そのため、労働組合の退職代行に依頼することで、以下のような効果が期待できます。
- 会社側が交渉を拒否しづらい
- 退職に伴う精神的負担が軽減される
- 労働者の権利を守る専門家による適切なアドバイスが得られる
そもそも、退職は労働者に認められた権利であり、正社員(無期雇用契約の社員)の場合は2週間前に申し出ることで会社を辞めることが法律上認められています。
この退職の権利をなかば強引に侵害されて困っている場合は、労働組合の退職代行への依頼を前向きに検討してみるといいでしょう。
民間業者の場合、退職代行を使われたことに会社側が感情的になり、代行業者とのやり取りを拒否する可能性があります。
ですが、労働組合の退職代行が行う「団体交渉」に対して、会社(使用者)は正当な理由なく断ることは出来ません。
参照:厚生労働省「労働組合」
そのため、労働組合運営の退職代行は、より安心感を持って利用できる退職サービスといえます。
労働組合運営の退職代行を選ぶ4つのメリット
労働組合が運営する退職代行サービスには、一般の退職代行にはない独自の強みがあります。
前述したように、憲法で保障された団体交渉権を活用できることで、より確実で安全な退職が実現できます。ここからは、労働組合の退職代行の以下のメリットについて、詳しく解説していきます。
未払い賃金の請求交渉が可能
労働組合の退職代行では、残業代をはじめとした未払い賃金の請求について、会社側と交渉することができます。
退職とそれに伴う意思伝達しかできない民間の退職代行と異なり、労働組合は団体交渉権を持つため、適切な賃金請求が可能です。場合によっては、取り戻した未払い賃金で退職代行の費用を賄えることもあるでしょう。
労働組合の退職代行の未払い残業代・賃金の請求には以下のメリットが挙げられます。
- 法的根拠に基づく交渉が可能
- 専門家による正確な残業代計算
- 会社側の不当な対応を防止
- 確実な支払い実現の可能性が高い
・できるだけ揉めたくない。
・すぐに辞めれるなら未払い賃金はいらない。
退職代行を使ってでも、すぐに会社を辞めたいと考えている人の中には、このように考えている人が少なくありません。
ですが、これは非常にもったいない考え方だと思います。
退職後も自身のキャリアや生活は続くため、転職活動や休職期間中にもお金が必要になります。
また、未払い賃金を回収することで、資格取得やスキルアップのための自己投資も可能になるでしょう。
そのため、未払い賃金がある人が、せっかく退職代行サービスを利用するのであれば、きっちり請求して退職することが望ましいといえるでしょう。
会社との交渉で有給休暇を確実に消化
退職前の有給休暇の取得は労働者の正当な権利ですが、会社側に拒否されるケースも少なくありません。
労働組合の退職代行では、有給休暇の取得を含めた退職条件について、適正に交渉することができます。
会社は労働者の有給休暇の取得に対して「時季変更権」を行使して取得時期を変更することが可能ですが、退職日より後に有給休暇日を変更することはできません。
そのため、退職前の有給休暇取得は基本的に拒否できないものではあるものの、会社によっては「時季変更権」を主張し、有給を認めない場合があります。
このような状況であっても、労働組合の退職代行であれば法的根拠に基づいた交渉が可能になるため、安心して退職を進めることができます。
退職日の交渉が可能
労働組合型では退職日についても適切な交渉が可能です。
即日退職を希望する場合や、一定期間の引き継ぎ期間が必要な場合など、状況に応じて柔軟な調整ができます。これにより、労働者の希望に沿った形での退職時期の設定が実現できます。
労働組合の退職代行であれば退職日の交渉も可能です。
そのため、退職予定日までのすべての出勤日に有給休暇を取得することで、実質的な即日退職を実現することもできます。
ですが、この場合においても引き継ぎが一切不要になるわけではなく、円滑な退職のためには引き継ぎマニュアルなどを事前に準備しえとくことが望ましいといえるでしょう。
弁護士の退職代行より安価
労働組合の退職代行は、民間の代行業者より対応範囲が広いにも関わらず、弁護士の退職代行より安価な傾向がある点がメリットの一つです。
交渉や法的対応まで可能な弁護士の退職代行は一般的に5万円以上の費用が必要になることが多いですが、労働組合型の退職代行は3万円前後で利用できるサービスが多いです。
弁護士にしかできないことを記載
退職に伴って、損賠賠償の請求や懲戒解雇をされてしまった場合、法的な対応は弁護士にしかできないため、注意しておきましょう。
もしも法的対応が必要になる可能性が高いと想定される場合は、弁護士の退職代行に法的リスクと対策について相談するといいでしょう。
労働組合ではなく民間企業の退職代行を選ぶリスク
一般企業が運営する退職代行サービスは、労働組合型と比べて料金が安いケースもありますが、いくつかの重要なリスクが存在します。
具体的には、以下のリスクを理解することで、より適切なサービス選択が可能になります。
それぞれ詳しく解説していきます。
・できるだけ安価に退職を実現したい
・退職に伴うリスクは特にない
という場合は、民間の退職代行に依頼しても問題ない場合があります。
自身の退職における優先順位を考え、依頼する代行業者を選定するようにしましょう。
希望の退職条件で辞めれない
民間の退職代行に依頼した場合、希望の退職条件で辞められないリスクがあります。
労働組合や弁護士の退職代行とは異なり、民間の代行業者は退職に関する「交渉」は非弁行為に該当するため行うことができません。
そのため、退職に伴う諸条件の交渉を代行してもらいたい場合は、労働組合、もしくは弁護士の退職代行に依頼することを検討した方がいいでしょう。
交渉権を持たない民間の退職代行を使って希望の条件を通すためには、自分が主体的に考えて退職交渉をすることが必要になるが可能性があります。
交渉力不足が招く退職拒否
一般の退職代行業者は、退職の意思を伝える「使者」としての役割しか果たせません。
これは単に退職の意思表示だけでは解決できない、複雑な労使問題を抱えているケースで特にリスクがあるといえるでしょう。
退職は労働者に認められた権利であり、正社員であれば退職申し出から2週間で辞めることができます。
ですが、会社によっては職権を濫用し、単色を認めないケースがあります。
退職後の転職活動をスムーズにするためにも、法的に交渉が可能な労働組合や弁護士の退職代行を選ぶといいでしょう。
非弁行為で訴えられる可能性
本記事でも何度かお伝えしているように、一般企業の退職代行が退職交渉を行うことは法律で禁止されている「非弁行為」に該当します。
これは退職者本人にとっても大きな不利益となるでしょう。
退職代行サービスの浸透に伴い、非弁行為にならないように線引きをきっちりしている民間業者も多いですが、リスクや対応範囲の制限を抱えていることには変わりません。
安心して退職代行を利用したい場合は、民間の事業者を避けることも選択肢の一つとして考えるといいでしょう。
労働組合運営の退職代行を選ぶ際のポイント
労働組合運営の退職代行サービスを選ぶ際には、以下のポイントをチェックすることがおすすめです。
それぞれ詳しく解説していきます。
実績がある退職代行を探す
信頼できる退職代行を探す選ぶ際は、実績や評判を確認することがおすすめです。
実績やクチコミを確認する際は以下のポイントを確認するようにしましょう。
- 退職成功件数の実績
- 労働組合としての活動歴
- 具体的な成功事例
- SNSや外部のクチコミサイトでの評価
無形サービスである退職代行は担当者によって質が上下することもあるため、特に口コミは必ずチェックするようにしておきましょう。
料金体系を確認する
労働組合の退職代行は弁護士に依頼するより安価な傾向があります。
料金体系は退職代行業者によって異なりますが、追加料金や組合費の有無、対応範囲の追加による料金の変動有無などを必ず確認しておきましょう。
料金に含まれるサービスの範囲や、追加オプションの有無なども事前に確認することが重要です。
万が一退職できなかった場合に備え、返金規定がある退職代行のサービスがおすすめです。
退職交渉の具体的な対応範囲を確認する
労働組合の退職代行は民間業者より対応範囲が広いものの、サービスによって交渉できる範囲は異なります。
退職後のサポート範囲についても、サービスごとに違いがあるため、自分のニーズに合っているか検討することが大切になります。
退職交渉が難航した場合の具体的な対応についても確認し、自身の退職を託して問題ないか確認しておきましょう。
労働組合の退職代行を選ぶ際の注意点
労働組合の退職代行は多くのメリットがありますが、サービスを利用する前に理解しておくべき重要な注意点があります。
労働組合の退職代行サービス利用時に知っておくべき注意点は以下の通りです。
上記を理解することで、より適切な期待値を持ってサービスを利用することができます。それぞれ詳しく解説していきます。
損害賠償には対応はできない
労働組合の退職代行は労働三権のひとつである団体交渉権を行使することで、退職に関する様々な交渉が可能ですが、損害賠償請求や懲戒解雇などの対応は出来ません。
特にブラック企業など、退職に際して様々な要求をしてくる可能性がある会社を退職したい場合、このリスクには注意する必要があります。
法的対応が必要になるリスクがある場合は、労働組合ではなく弁護士の退職代行に依頼するといいでしょう。
慰謝料請求は弁護士に依頼が必要
上司のパワハラやセクハラに対する慰謝料請求を考えている場合、労働組合の退職代行だけでは対応できないため、弁護士へ依頼する必要があります。
深刻なハラスメント被害に対して慰謝料請求をしたいと考えている場合は、弁護士の退職代行へ依頼しましょう。
裁判が必要になる可能性がある場合は、弁護士の退職代行に依頼すべきだと覚えておきましょう。
民間業者より費用が高めになる傾向がある
労働組合の退職代行サービスは、一般的に2~3万円前後の費用が必要です。
これは一部の民間業者が提供する格安サービスと比べると、若干高額に感じるかもしれません。
また、交渉の結果として未払い賃金などが回収できた場合、その一部で費用を賄えることもあります。
ただし、未払い賃金の改修を保証するわけではないので、費用に関しては、最初から支払い可能な金額であることを確認した上でサービスを選択することが重要です。
労働組合の退職代行まとめ
労働組合の退職代行サービスは、憲法で保障された団体交渉権を持つという点で、民間の退職代行とは一線を画すサービスです。単なる退職の意思伝達だけでなく、未払い残業代の請求や有給休暇の消化など、幅広い交渉が可能である点が最大の特徴と言えます。
費用面では一般の退職代行よりも若干高額になる可能性がありますが、交渉力や法的な保護を考慮すれば、十分な価値があるサービスと言えるでしょう。
特に、会社側との交渉が必要になりそうな場合や、退職に際して何らかのトラブルが予想される場合は、労働組合型のサービスを選択することで、より安全で確実な退職が実現できます。
ただし、損害賠償請求や懲戒解雇といった法的な対応が必要な場合は、弁護士への相談が必要となります。そのため、自分の状況に応じて、労働組合か、弁護士の退職代行か、相談先を適切に選ぶことが重要になります。
退職代行サービスを選ぶ際は、実績や料金体系、交渉可能な範囲などを十分に確認した上で判断することをお勧めします。特に信頼できる労働組合が運営しているサービスであれば、退職後のトラブル対応まで含めた包括的なサポートを受けることができ、精神的な負担を最小限に抑えながら、次のキャリアへと進むことが可能となります。