退職代行サービスは民間から労働組合まで様々な事業者が運営しています。そのなかでも、弁護士の退職代行は最も対応可能な範囲が広く、民間の代行にはできない「退職条件の交渉」だけではなく、労働組合でも対応できない損害賠償請求や懲戒解雇にも対応可能な点が特徴です。
退職はそもそも労働者の権利ではあるものの、ブラック企業の中には簡単に辞められず、退職時には訴訟を仄めかす会社もあるため、辞められずに困っている人もいるようです。
退職することで、会社側から法的な対応を取られるリスクがあると感じる場合は、適切な対処が可能な弁護士の退職代行に相談することがおすすめです。
本記事では、弁護士の退職代行に依頼するメリットや費用相場、サービスを選ぶ際のポイントを解説していきます。
退職代行を弁護士に依頼するべき3つの本質的理由
退職代行サービスには運営主体によって「民間」「労働組合」「弁護士」の3つの種類がありますが、その中でも弁護士の退職代行は最も確実な選択肢の一つです。
代行サービス利用時、弁護士の退職代行を選ぶべき理由は以下の通りです。
本質的理由3選
それぞれ詳しく解説していきます。
法的根拠をもとに会社と交渉が可能
弁護士による退職代行の最大の特徴は、会社との退職に関する「交渉」の代行が可能という点です。
民間の退職代行業者は、労働者の退職意思を会社に伝えることしかできませんが、弁護士は以下のような幅広い交渉を行うことができます。
- 退職日程の調整
- 未払い賃金や残業代の請求
- 未消化の有給休暇の取得交渉
- 業務引継ぎの方法や期間についての調整
これらの交渉は、労働者の権利を守りながら、円滑な退職を実現する上で非常に重要な要素となります。
退職代行を利用して会社に連絡した際、会社側が感情的になり、代行業者との退職に関するやり取りを拒否するケースがあります。
このような場合においても、弁護士の退職交渉であれば法的な交渉権限によって退職条件の交渉が可能な点がメリットといえます。
非弁行為のリスクがない
弁護士法により、弁護士以外の者が報酬を得て法律事務を行うことは「非弁行為」として禁止されています。
そのため、一般の退職代行業者がこの範囲を超えて交渉や訴訟への対応を行った場合、法的な問題が生じる可能性があります。
弁護士に依頼する場合は非弁行為にはなる心配はないため、以下の点で安心して任せることができます。
- 正当な代理人として退職の代行をしてもらえる
- 法的な交渉や手続きを適法に行える
これに対し、弁護士の退職代行の場合は正式な代理人として退職手続き及び交渉を代行してもらえるため、安心して退職を進めることができます。
弁護士を経由して退職連絡を入れることで、すんなりと辞められることが多いため、ストレスなく円滑な退職を実現したい人におすすめの選択肢といえます。
法的交渉力による確実な退職ができる
弁護士による退職代行では、法的な知識と交渉力を背景に、確実な退職の実現が可能です。具体的には以下のような対応が可能となります。
- 会社が退職を認めない場合の法的根拠に基づく対応
- 退職に関する法的権利の説明と主張
- 損害賠償を請求されても対応可能
さらに、弁護士は労働法に関する専門的な知識を活かし、退職希望者の権利を最大限保護しながら、確実な退職を実現することができます。
そもそも、労働者には退職の自由が法律で認められており、正社員の場合は2週間前に申し出れば退職できるとされています。
また、雇用期間の定めがある契約社員・パート社員の場合も、やむを得ない理由があれば、いつでも退職可能とされています。
参照:e-Gov法令検索「民法第627条・628条」
ですが、会社によっては職権を濫用して退職を認めない場合があり、結果的に強い精神的苦痛を感じている人も多いようです。
このようなブラック企業であっても、弁護士の退職代行に依頼することで、より確実に辞められる点が魅力のひとつといえるでしょう。
弁護士による退職代行で得られる3つのメリット
弁護士の退職代行サービスでは、単なる退職の代行だけではなく、会社を辞める際に必要な交渉や、必要に応じた法的対応が可能です。
具体的には、弁護士の退職代行に依頼することで、以下のメリットを得ることができます。
3つのメリット
それぞれ詳しく解説していきます。
特に、損害賠償を請求された場合や、退職希望者が慰謝料する場合の対応は弁護士の退職代行にしかできない強みとなります。
以下の内容を確認し、退職代行を使う理由と照らし合わせたうえで、弁護士の代行業者への依頼を検討していきましょう。
未払い給与の支払い交渉が可能
未払い給与や残業代がある場合、民間の代行業者とは異なり、弁護士は支払い交渉を行うことが可能です。
弁護士による代行では、残業代を含む未払い給与の正確な計算を行い、法的根拠に基づいた支払い請求を実施することができます。働いた分の正当な報酬を確実に回収することで、退職後の転職活動や資格取得にも活かすことができるでしょう。
ブラック企業の中には、既に働いた月の給与を「ちゃんと働いていないので支払わない」と言い張る会社もあります。
費用をかけずに回収したい場合は、自分自身で労働基準監督署などに相談を行い、給与の支払いを促すことは可能です。
ですが、迅速に退職と未払い給与の回収を実現したい場合は、弁護士の退職代行に依頼を検討するといいでしょう。
損害賠償を請求された場合も対応可能
ブラック企業の場合、退職時に会社から損害賠償を請求されるケースも少なくありません。
特に、退職代行を使って連絡してきたことに感情的になり、出社して十分な引き継ぎをしないことを理由に損害賠償請求を仄めかすことが多々あります。
弁護士による代行では、このような不当な損害賠償請求に対する法的防御を行い、請求の妥当性を詳細に検討します。その上で、損害賠償請求に一定の正当性がある場合は、必要に応じて賠償額の交渉や、場合によっては反訴の可能性を検討することが可能です。
ただし、弁護士に相談すれば必ず損害賠償請求を防げるわけではないため、注意が必要です。
退職者に損害賠償請求される正当な理由がある場合は、そのまま裁判となり、支払い命令が出る可能性もゼロではありません。
裁判となると、退職後の転職活動やその後のキャリアに悪影響が出る可能性があるため、損害賠償請求をされないことが最も重要といえるでしょう。
不安がある場合は、まずは弁護士の退職代行で問い合わせを行い、リスクを相談してみるといいでしょう。
>退職代行なら引き継ぎ不要で辞められるのか?リスクと対策を解説
ハラスメントに対する慰謝料の請求もできる
職場におけるパワハラやセクハラ等のハラスメントが退職理由の場合、弁護士は専門的な法的対応を行うことができます。
まず、パワーハラスメントやセクハラの事実確認と証拠収集を適切に行い、その上で精神的苦痛に対する適切な慰謝料額の算定を行います。
そのうえで行う会社側との慰謝料交渉においては、法的な根拠を示しながら粘り強く交渉を進めることができ、必要に応じて労働審判の申立を行い、そこでも解決しない場合は訴訟を行います。
退職の際に会社に慰謝料を請求したいと考えている場合は、弁護士への相談を前向きに検討するといいでしょう。
訴訟を見据えた法的対応が必要になる場合は、弁護士の退職代行以外は出来ないことを覚えておきましょう。
弁護士以外の退職代行でも出来ること
弁護士の退職代行は、民間、および労働組合の退職代行にできないことまで対応可能な反面、利用料金はやや高めになる傾向があります。
そのため、退職にかかる費用を安く抑えたい場合や、退職に伴うリスクが小さい場合は、弁護士以外の代行サービスで辞めることも検討するべきといえます。
そこでここからは、弁護士以外の退職代行業者でも実施可能な以下の内容について解説します。
上記について、それぞれ詳しく解説していきます。
退職意思の伝達の代行
退職代行業者の基本的なサービスとして、最も重要な役割を果たすのが退職意思の伝達です。具体的には、会社への退職意思を電話や書面で通知し、退職希望日を伝えることができます。
また、退職理由についても、簡潔に伝達することが可能です。これらの基本的なコミュニケーションは、弁護士法に抵触しない範囲の行為として認められており、退職代行業者が適法に行うことができる中核的なサービスとなっています。
退職に関する意思や希望を「伝える」だけであれば、民間の代行業者でも可能です。
一般的には「それなら自分で退職を伝えればいいのでは?」と思われますが、パワハラやいじめが横行する劣悪な職場環境のブラック企業では、退職の意思を直接伝えることも難しいといえるでしょう。
退職の意思を伝えることに特化したサービスを利用したい場合は、民間の退職代行の利用を検討するといいでしょう。
退職に伴う有給休暇利用の通知
有給休暇の取得に関する通知については、以下の範囲で対応が可能です。
- 有給休暇取得の意思表示
- 取得予定日の通知
ただし、有給休暇の取得に関する具体的な交渉や調整は行えない点に注意が必要です。
もしも会社側が有給休暇の取得を拒否、もしくは日時の変更の申し出をしてきた場合に対し、民間の退職代行では交渉を行うことは出来ません。
退職に伴って、代行会社経由で有給休暇の取得を伝えた場合、会社側が拒否するケースとしては、「有給休暇はない」と言われたり、「時季変更権」を主張して別日程で取得させようとするパターンが考えられます。
これに対し、法的根拠をもとに毅然と対応するためには、弁護士の退職代行に依頼するのが安心といえるでしょう。
退職条件に関する交渉
民間の退職代行の場合は、基本的に「退職に伴う意思の伝達」以外を代行してもらうことは出来ませんが、労働組合の代行業者であれば、団体交渉権を使って退職条件の交渉が可能です。
労働組合の退職代行は弁護士より安価に依頼できる傾向があるため、退職条件の交渉代行と安価な利用料を両立させたい人は、労働組合の代行業者へ依頼することを検討するといいでしょう。
ただし、労働組合であっても、損害賠償や懲戒解雇などに法的な対応をおこなうことはできません。
退職に伴って予測されるリスクによって、依頼する代行業者を選ぶといいでしょう。
弁護士による退職代行サービスの具体的な進め方
弁護士による退職代行サービスの主な流れについて、以下に詳しく解説していきます。
まずは無料相談で状況を弁護士に説明する
退職代行サービスの利用を検討する最初のステップは、弁護士への無料相談です。この段階では、退職を考えるに至った経緯や理由、職場での具体的な問題点について詳しく説明することが重要です。
退職代行の依頼をスムーズにするため、特に以下の点について、できるだけ具体的に説明することをお勧めします。
- 職場環境の現状(残業代未払いやハラスメントなど具体的な問題)
- 希望する退職時期や条件、会社側との現在の関係性
- 退職に関して懸念している事項
- これまでの会社とのやり取りの経緯
弁護士はこれらの情報を基に、最適な対応方針を提案してくれます。
正式に退職代行を依頼
状況の確認と方針の提案を受けた後、サービス内容や費用に納得できれば、正式な依頼手続きに進みます。この際、主に以下のような準備が必要となります。
- 委任状の作成
- 会社の就業規則の写しや労働契約書などの必要書類の準備
- 給与明細や勤務記録などの関連資料の収集
- 退職に関する具体的な要望事項の整理
弁護士から会社へ退職の意思を通知する
弁護士は会社に対して、正式な書面で退職の意思を通知します。この通知には退職の意思表示、希望する退職日や有給休暇の取得日、必要に応じて未払い金の請求などが含まれます。
通知後は、会社からの返答を待ち、必要に応じて追加の連絡を行います。
退職条件の交渉と合意形成を進める
会社からの応答を受けて、具体的な退職条件の交渉を開始します。この段階では、退職日の確定、退職金の算定、未払い残業代の精算、有給休暇の消化などについて、法的な観点から適切な交渉を行います。
交渉は常にクライアントである退職希望者の利益を最優先しながら、円滑な退職の実現を目指して進められます。
退職成立
全ての条件について合意が得られれば、正式に退職が成立します。
ただし、退職日以降に離職票などの退職関連書類が届かないなどのトラブル発生する場合があるので、アフターフォローを受けられる代行サービスを選ぶことがおすすめです。
弁護士の退職代行における費用を解説
ここからは退職代行を弁護士に依頼する際の費用について、利用料金の相場や費用構造について解説していきます。
料金体系を把握することで、退職の計画を立てやすくなり、より安心してサービスを利用することができます。
退職代行サービスによって料金体系は様々なので、気になる代行サービスは公式HPを細かくチェックしておきましょう。
弁護士の退職代行は比較的高額
弁護士による退職代行サービスは、民間や労働組合が運営する代行業者より高額になる傾向があります。
民間および労働組合の代行サービスの相場が2~3万円程度なのに対し、弁護士の退職代行は3~10万円程度が必要になるものが多いです。
弁護士の退職代行サービスは、対応内容によっては追加報酬が必要になる場合もあるので、注意しておきましょう。
次項で詳しく解説していきます。
回収額に応じて追加費用が発生するケースがある
弁護士による退職代行は未払い残業代や退職金の請求などが可能な反面、金銭的な回収を伴う場合は以下のような追加費用が発生することがあります。
- 回収金額の一定割合(20〜30%が相場)
- 交渉の長期化に伴う追加報酬
- 訴訟に移行した場合の裁判費用
※追加費用不要のサービスもあります。
弁護士の退職代行に依頼することで、これまでもらえなかった未払い賃金を回収できる可能性が高い反面、退職に伴う必要経費は高くなるため、注意が必要です。
費用対効果からみた弁護士活用のメリット
弁護士の退職代行サービスの利用料金は一般の退職代行業者と比べると高額に見えますが、以下のような点を考慮すると費用対効果は高いと言えます。
- 未払い金の回収可能性が高まる
- 不当な損害賠償請求から身を守れる
- 退職後のトラブル防止につながる
- 確実な退職実現による精神的負担の軽減
また、一部の弁護士事務所では分割払いや成功報酬型の料金体系を採用しているケースもあるため、相談時に確認するといいでしょう。
弁護士の退職代行は高額になったとしても、回収した未払い賃金や退職金で賄えることが多いでしょう。
また、何よりも「損害賠償請求」や「懲戒解雇」をされるリスクがある場合は、法律の専門家の立場から適切な対処をしてもらえるため、安心して退職を進められる点がメリットといえるでしょう。
信頼できる弁護士の退職代行サービスの選び方
ここからは、弁護士の退職代行サービスを選ぶ際の重要な以下のポイントについて解説します。
適切なサービスを選択することで、より確実で満足度の高い退職代行サービスを受けることができるため、必ずチェックしておきましょう。
それぞれ詳しく解説していきます。
弁護士の退職代行は民間や労働組合の業者への依頼と比べると高額になりやすいので、以下を参考に依頼先を見極めましょう。
退職代行の実績が豊富な弁護士を選ぶ
退職代行を弁護士に依頼する場合、実績が豊富な法律事務所を選ぶことが重要です。特に、労働紛争や未払い賃金請求などの労働法案件に精通した弁護士は、退職に伴う法的リスクの回避や適切な交渉戦略の構築に長けています。
弁護士の退職代行を選ぶ際には、以下のポイントを考慮しましょう。
- 労働事件の取り扱い実績
- 未払い賃金やハラスメント対応
- 迅速な対応力
ブラック企業や退職トラブルを抱える場合は、交渉力と法的対応を兼ね備えた実績豊富な弁護士を選ぶことで、安全かつ確実な退職を実現できるといえるでしょう。
無料相談で対応の丁寧さを確認する
初回相談時の対応は、その後のサービス品質を判断する重要な指標となります。相談者の話をよく聴く姿勢があり、質問や不安点に対して分かりやすい説明ができる弁護士を選びましょう。
また、具体的な解決方針を示してくれ、コミュニケーションが円滑に取れることも重要な判断基準となります。
情報の行き違いにならないように、しっかり話を聴いてくれる弁護士がおすすめです。
また、無料相談を価値あるものにするために、事前に伝えるべき内容を整理しておくといいでしょう。
費用体系が明確な弁護士事務所を選択する
費用に関する透明性は、信頼関係構築の重要な要素です。初回相談から完了までの費用が明確で、追加費用が発生する条件が明示されている事務所を選びましょう。
未払い賃金や退職金の回収、万が一の裁判への対応時等、代行してもらえるものに対して追加費用が掛かるポイントを事前に理解しておくことが重要になります。
弁護士の退職代行に関するよくある質問と回答
弁護士の退職代行に関するよくある疑問について、以下に回答していきます。
退職代行は弁護士以外にも依頼できますか?
民間、および労働組合への退職代行業者への依頼も可能です。ですが、対応できる業務の範囲に制限があるため注意が必要です。
民間の代行業者は、退職の意思を伝えることしかできず、条件交渉や金銭的な請求は行えません。
また、労働組合の退職代行の場合は、退職に伴う交渉は可能ですが、損害賠償請求や懲戒解雇に対応することはできません。
退職代行を依頼してから実際に退職できるまで、どのくらいかかりますか?
退職希望者の状況により異なりますが、早い人は依頼後すぐに会社へ連絡を行い、退職日までの出勤日に有給休暇を使うことで実質的な即日退職を実現することも可能です。
会社が退職を認めない場合はどうなりますか?
弁護士が代理人として適切な対応を行います。
民法上、期間の定めのない労働契約は労働者からの申し出により2週間後に解除できるため、会社が認めないという理由で退職できないことはありません。
退職代行を弁護士に依頼すべき理由まとめ
退職代行サービスを選択する際、弁護士への依頼は最も確実で安全な選択肢となります。本記事で解説してきたように、法的な専門知識と交渉力を持つ弁護士に依頼することで、確実な退職プロセスの実現が可能となります。
特に重要なのは、弁護士が正当な代理人として、退職に関するあらゆる交渉や手続きを行えることです。また、万が一損害賠償請求や懲戒解雇をされた場合でも対応が可能です。
退職に際して少しでも不安や懸念がある場合は、まずは弁護士に相談することがおすすめです。
ブラック企業を円滑かつ早期に退職し、心身を回復して次の転職先に備えるといいでしょう。